私は密かに彼女のことを「水風呂さん」と呼んでいる。いつも行くスーパー銭湯で静かに水風呂に入っている女性のことだ。お風呂ではみんな生まれたままの姿で、隠す・カバーするという女性特有の技が使えないため、歳が比較的わかりやすい。水風呂さんは恐らく四十代後半。背筋をピンと張って行儀よく水風呂に入っている。

いや、水風呂に入っているどころか、もはや水風呂に住んでいるのかもしれない。それくらい、静かにただずっと水風呂に入っている。

彼女の存在に気づいたのは、そのスーパー銭湯では私くらいしか水風呂に入っている人がいないから。彼女は知っているのだろう、「ととのう」ということを。だからそこでじっと血の流れを感じて静かに座っている。サウナの後、水風呂に入らない人が多い中、水風呂の良さを知っている水風呂さんのことが私は気になって仕方なかった。

ある日、水風呂に入って行く彼女をまた見かけた。湯船からこっそり時間を計ってみた。余裕で3分を越していた。水風呂は1分を超えるあたりからとても気持ちよくなってきて、冷たさを感じなくなる。あたりが静かに感じて、まるで森の泉にいるかのような錯覚に陥る。それを続けると倒れてしまう可能性がある。

私は水風呂さんを見ていて心配でドキドキした。水風呂さんがその森の泉状態にいるのだとわかってはいたが、あまりに長すぎる。7分が経った。水風呂さんはすっと立ち上がりロッカールームの方へ出て行った。あぶねー!

そういえば、水風呂さんをサウナ室で見たことがない。外気浴もしていない。あれ待てよ、水風呂さんは、血流も森の泉も何も、もしかしてただ単に水風呂だけ入りに来ているのかもしれない。

お風呂ではみんな見た目は丸裸なのに、結局その人のことなんて何にも見えないものである